製品設計プロセスを効率的に進めるためには、設計ツールを活用することが効果的です。しかし設計ツールを使うこと自体が目的化していまい、逆に設計効率を低下させてしまうことがよくあります。中小製造業が設計ツールを選ぶ際の考え方をまとめました。
未然防止手法
⇒FMEA、FTA、QE(品質工学)、QFDなど様々な手法があるが、設計資産の蓄積が少ない企業の場合は、FMEA一本に絞ることが望ましい。多くに手を出しても必ず消化不良になる。また、同時に複数の手法を併用すると、重複作業が必ず発生するため、設計効率の低下や設計者のモチベーション低下にもつながってしまう。FMEAは世界中で使用されているボトムアップ型の未然防止手法であり、世界中で使用されているのは効果が認められているからである。ピンポイントで重大な不具合事象を分析する場合などはFTAが効果を発揮する。
3次元CADソフト
⇒既に多くの中小企業で使用されている。設計プロセスを効率化するためにはもはや必須のツールである。3次元CADというベースがあって、3Dプリンター等による高速試作、シミュレーション(CAE)の活用、樹脂流動解析、デザインレビューにおける参加者の理解度向上、量産品立ち上げのリードタイム削減が可能になる。まだ導入していない企業はできるだけ早く導入を検討すべき。実際の運用は2Dと3Dのメリット/デメリットを整理して使い分ければよい。
シミュレーション(CAE)
⇒材料力学などのベースとなる知識があって、初めて使用できるツールである。ベースの知識なしでの導入は「百害あって一利なし」。シミュレーションソフトを使いこなせるようになるには、設計者の育成、設計をチェックする側の人材の育成、シミュレーション結果と実験値の評価など長期間に渡る投資が必要。そのような投資をする意志があるかどうかがポイントとなる。シミュレーション(CAE)を使いこなせるようになれば、設計効率は大きく向上し、シミュレーション結果は有用な設計資産として蓄積されていく。
リスクアセスメント
⇒リスクアセスメントの考え方はグローバルスタンダードとなっており、安全性の判断基準としての使用は必須である。リスクアセスメントだけを取り出して設計手順の中のイベントとして実施する必要はないが、要求仕様書やFMEAの中で設計者がリスクを想定し、管理者や経営者がそれを承認するという仕組みを構築する必要がある。
チェックリスト
⇒不具合チェックリストや設計チェックリストなど多くの企業が使用している。うまく使えば非常に効果的なツールだが、チェックリストを付けること自体が目的になっていて、設計者の作業負荷が増えるだけになっているケースが非常に多い。また、過去の不具合事象を詰め込むだけ詰め込んで何百行にもなっていて、結局誰も使わなくなるというケースも多い。チェックリストを使う目的は設計者を管理することではなく、品質を安定させること、設計効率を上げることであることを明確にした上で運用することが重要。チェックリストは最新の情報に素早く更新すること、内容の重複や不要な項目を常に排除するなどの仕組みを作った上で運用することがポイント。
社内標準
⇒設計資産の中核となるもの。設計規格や設計基準、試験方法などを標準化することにより品質の安定と設計効率の向上が見込める。社内標準を作る作業自体はキャッシュを生み出さないので、どうしても優先順位が低くなってしまう傾向にある。経営者・管理者は未来への投資と考えて、設計者が社内標準(=設計資産)を作成する時間を作ることが望ましい。
PDM(製品データ管理)システム
図面、仕様書、ワークフローなど製品設計・開発に関する様々なデータやプロセスを一括管理するシステム。大企業ではほとんどの企業で導入されている。導入を検討するのであれば、製品設計の手順や仕組みをある程度確立した後に行うことが望ましい。間違ってもシステムを先に導入し、自社の製品設計の仕組みをそれに合わせるべきではない(そういう事例もある)。中小企業では重い大規模なシステムは一切必要ない。むしろ柔軟性に富み変化に対応できるようなシステムを導入することが望ましい。