最低限必要となるインプットは一般的に以下の3つです。
①法規制関連
法規制違反は企業の信頼低下や最悪の場合自主回収にもつながりかねませんので、自社製品に適用される法規制は慎重に漏れなく抽出していく必要があります。実際、消費者庁のホームページを見ると、多くの製品が法規制違反で自主回収しています。
<自主回収の例>
・自動車用ワイヤレススイッチ
⇒電波法に規定された微弱電波基準値の範囲を超えているため自主回収
・幼児用粘土
⇒食品衛生法違反の疑いのある着色料の使用により自主回収
中小製造業にとって自主回収は経営を揺るがす事態になりかねませんので、しっかりと対応できる体制にしておく必要があります。また、業界基準や標準類なども自社製品に適用させる必要があればインプット情報として抽出しておきましょう。
たくさんの法規制や基準類があるので大変だと感じるかもしれませんが、法規制を守ることに創造的な能力はほとんど必要ありません。単純にルールを守ればよいだけです。必要な法規制等を一覧にしてチェックリスト化するなど、抜け漏れが発生せず効率化できる工夫ができるとよいと思います。また、担当者を明確にし法改正時などに遅延なく更新できるような体制にしておくことも必要です。
②製品に対する要求事項
製品設計を行う際に指針となる目的やQCDの情報を明確にします。新製品であれば商品企画書、不具合対策であれば不具合対策計画書のように帳票を準備します。これらの妥当性は社内のルールにしたがって決定しておく必要がありますが、ここでは既に決定していることにします。
<商品企画書の例>
目的:何のためにやるのか(例:自社製品Aを未開拓市場である〇〇業界用にアレンジして投入し利益向上を図る)
Q:製品の要求事項(例:重量、性能、外観など)
C:原価、投資、投資回収期間、販売価格、販売数量など
D:スケジュール、生産計画など
<不具合対策計画書の例>
目的:何のためにやるのか(例:不具合事象Bにより顧客の評価が著しく低下しているため改善を図る)
Q:製品の品質に対する要求仕様(例:クレーム率0.1%の不具合事象を0.002%以下に低減させる)
C:原価の変化、投資など
D:スケジュール、生産計画など
要求事項は分解していくと以下のようにどんどん細かくなっていき、最終的に設計解を導けるところまでブレークダウンしていきます。
(例)プラスチック製コップの要求事項
食洗機で洗える
⇒90℃の温水500回の繰り返し使用ができる
⇒90℃の温水500回の繰り返し使用で強度低下が10%未満の樹脂を使用
⇒耐熱グレードの〇〇というPPとする(設計解のひとつ)
商品企画書などにどこまで記入すべきかは自社の状況に合わせて、検討していけばよいと思います。
製品に対する要求事項をまとめるにあたって重要なことは、判断するために必要な情報源を明確にし継続的に情報を収集・分析する仕組みを作ることです。商品企画を行うためには市場情報や使用者からのフィードバック情報などが欠かせませんし、不具合を対策するのであれば、不具合情報の収集と分析がどうしても必要です。情報源を明確にし日々のルーティンとして情報を収集・分析する体制を作ることが大切です。
<情報源の例(商品企画の場合)>
・お客様アンケート
・販売推移
・利益額推移
・競合情報
・営業情報 など
③自社保有情報
新製品を設計する際でもほとんどの場合、これまでの製品の類似品を設計することになります。類似品に関する情報(不具合、コスト、顧客からの評価など)は新製品を設計するにあたり非常に役に立ちますので、担当者がこれらの情報を必ずチェックするような仕組みを構築するようにします。また、類似品情報以外にも社内標準や各種チェックリストなどが必要であれば、それらもインプットとしてチェックできるような仕組みにしておきます。
重要なことはインプット情報を漏れなく抽出することです。どんな天才技術者であっても、優れた能力がある組織であっても、インプットされない仕様を製品に落とし込むことはできません。また、インプットの漏れは後工程における手戻りの主要な原因のひとつです。まずは法規制関連や過去不具合情報などルーティンワークとして抽出が可能なインプット情報は決して漏らさないようすることが重要です。