設計

市場や顧客のニーズに合致した「技術力」を高める

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日本の製造業を表す言葉としてよく以下のように言われます。

「技術で勝って、ビジネスで負ける」

この言葉にはいつも違和感を覚えます。理由は二つあります。一つは「技術力」は製品が市場で受け入れられるための一つの要素に過ぎないということ。もう一つは「技術力」には様々なものがあり、ひとまとめに「技術で勝つ」と言っても、どんな「技術力」で勝つのか判然としないことです。グローバル市場におけるビジネスで勝てない日本企業が、負け惜しみで言っているようにしか聞こえません。

「技術力」を二つの軸で考えてみたいと思います。

①マーケティング軸

マーケティングミックスの4Pのうちの「製品」に関して「技術力」が求められます。「製品」に関しては、「技術力」以外にも、「ブランド」や「パッケージ」など様々な要素が求められます。

4P

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

②事業プロセス軸

設計/開発、製造のプロセスで「技術力」が求められます。設計/開発のプロセスだけを考えても以下のようにたくさんの「技術力」があります。

process

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに「低コスト化」の「技術力」を細分化すると、以下のようにたくさんの「技術力」が存在することが分かると思います。

cost

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上のように考えていくと、「技術で勝って、ビジネスで負ける」という言葉では、日本企業がどういった「技術力」に強みを持っているのかを明確にすることはできません。グローバル市場で戦う日本企業の多くが、市場のニーズである「低コスト化の技術力」で負けて、ビジネスで負けていることは誰の目にも明らかです。

「技術力」はすべて市場や顧客のニーズとヒモづいたものでなければ価値がないということだと思います。「火星で生活するための技術力は世界一」などと言っても、一般の消費者にはまったく意味のない事と同じです。大切な事は市場や顧客のニーズに合致した製品を作るための「技術力」を高めることです。

日本の一部の中小製造業はマスコミなどから「世界トップレベルの技術力」、「海外企業と比べて技術力が高い」などと言われることが多いように思います。しかし、それはどんな「技術力」なのでしょうか。顧客があれこれ言わなくても製品化できる「技術力」なのでしょうか。発注から納品まで超短納期で納品できる「技術力」なのでしょうか。特定の顧客向けの一つの「技術力」がいかに高くても、他の市場や顧客にそういうニーズがないのであれば、その「技術力」に価値はないのだと思います。

「技術力」を議論する時、顧客や市場のどういうニーズに対して、どういう「技術力」が高いのかを議論することが重要だと言うことが分かって頂けたかと思います。大くくりで「技術力」で勝っているとか負けているとか議論すること自体がナンセンスです。要は市場や顧客のニーズを満足させる製品を生み出し、それを買ってもらえるかどうかにかかっているのだと思います。

「うちは技術力があるから、今後も大丈夫!」とおっしゃる中小製造業の経営者の方がいらっしゃいます。社外には言わなくても、内心そう思っている経営者の方もいらっしゃるでしょう。しかし、その「技術力」は市場や顧客のニーズにヒモづいたものでしょうか。今後、市場や顧客のニーズが変わった時、その「技術力」で戦うことができるのでしょうか。市場や顧客と日々会話しながら、自社の「技術力」をチェックすることが重要だと思います。

経営資源が不足しがちな中小製造業にとって、すべての「技術力」を高めることは事実上不可能です。自社がターゲットとする市場や顧客のニーズを満たすために必要な「技術力」に狙いを定め、高めていくことが競争を優位に進める近道だと思います。これから自社に設計を取り込んでいこうという企業は、特にそれが当てはまります。設計/開発に関する「技術力」を上げて行くには時間がかかりますので、狙いを定めないと、競合他社に比べて差別化できません。開発スピード力で勝負するのか、カスタム化力で勝負するのか、狙いを定めて短期間のうちに「技術力」を向上させることが、競争力強化につながると思います。

 

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