自社製品を設計するということは、製造のみを行う場合と比較して製品事故が起きた時の責任を負うリスクが高くなると考えられます。製造のみを行う場合も当然同様のリスクはありますが、責任は顧客の定めた要求仕様の範囲内に収まることが一般的です。しかし、自社で設計する場合は、製品の安全性をどこまで確保するのか、使用者がどのような使い方をするのかなどの判断を自社で行わなければなりません。法律や規格などは最低限の基準を決めているに過ぎませんので、自社の判断が市場とギャップがあることも少なくありません。すなわち、製品安全に必要な要求仕様について明確な答えがないのです。そこが製造のみを行う事業との根本的な違いであり、市場とのコミュニケーションに失敗すると責任を負うリスクが高くなるのです。
社会情勢としては製品事故を一本化して収集する消費者庁の発足(2009年)や各種法律の整備などが進み、消費者保護が強化されている状況であり、製造業者はこれまで以上に製品安全に配慮する必要があります。製品事故によるリスクはこれまで以上に高まっていると言わざるを得ません。しかし、リスクがあるのであれば、しっかりコントロールした上で対応すればよいだけです。まずは企業にどのような責任が課せられているのか確認しましょう。
製品安全に関して、企業はその規模に関わらず法的な責任と社会的な責任を負います。
法的な責任 | 刑事上の責任/民事上の責任/行政上の責任 |
社会的な責任 | 法律の時効などにかかわらず、企業独自の判断で行う対応 |
法的な責任
<刑事上の責任>
・製品に問題があることを知りながら市場へ流通させ、人を死傷させたとき。(作為型)
・市場に流通している製品に問題があることを知りながら適切な対応をせず、人を死傷させたとき。(不作為型)
<事例①>
六本木ヒルズ回転ドア事故(2004年)
事故概要 | 6歳男児が回転ドアに挟まれて死亡 |
裁判所判断 | 本件以前にたびたび事故が発生しており、事故の発生は予見可能だった。 |
判決 | 森ビル、三和タジマの責任者の有罪確定 |
<事例②>
三菱自動車脱輪事故(リコール隠し)(2002年)
事故概要 | トレーラーから外れた車輪に当たって母子三人が死傷 |
裁判所判断 | 本件以前に多くの破損例があり、放置すれば事故が起きると予測できたにもかかわらず、 リコールなどの改善策をとらなかった。 |
判決 | 三菱自動車の責任者の有罪確定 |
不法行為責任(民法709条)
・故意または過失により、他人に損害を与えたとき。
※被害者は製造業者等の故意、過失を証明する必要あり。
※責任期間:不法行為を行った時点から20年
<事例>
パロマ製のガス瞬間湯沸かし器による一酸化炭素中毒事故(2005年)
事故概要 | 湯沸かし器の不正改造による一酸化炭素中毒で死傷 |
裁判所判断 | 事故が起きる危険性が高いことを認識していたにもかかわらず、 リコールなどの対策を怠った。 |
判決 | パロマと修理業者へ約1億2000万円余りの損害賠償 |
※刑事裁判でもパロマの社長などが有罪確定
製造物責任法
・製品の欠陥により、他人に損害を与えたとき。
※被害者は製品の欠陥と損害の因果関係のみを証明すればよい。
※責任期間:製造物を引き渡してから10年
<事例>
パナソニック携帯電話低温やけど事故
事故概要 | 携帯電話をズボン前面ポケット内に入れて使用していたところ、 発熱により大腿部にやけどを負った。 |
裁判所判断 | 通常有すべき安全性を欠いていた。 |
判決 | パナソニックへ約220万円の損害賠償 |
<行政上の責任>
・製品の欠陥により重大製品事故が発生した場合などに、製品の回収等を命令できる。
※他にも消費生活安全法の別の条文、電気用品安全法などに回収等の行政命令が出せる規定がある。
<事例>
TDK加湿器発火・火災事故(2013年)
事故概要 | 加湿器からの発火によりグループホームで火災が発生し、6名が死傷 |
命令概要 | 危害防止命令(消費生活用製品安全法第39条1項) ①未回収製品の回収 ②消費者への注意喚起 ③措置状況の報告(1年間回収状況を報告) |
※その他にも各製品毎に適用される法律がありますのでご確認ください。
社会的責任
法的な責任はあくまで最低限のレベルであり、法定責任期間経過後も製品事故が発生した場合に損害賠償や社告などを行う企業もある。企業の社会的責任、社会情勢、自社のブランド戦略などを勘案し、製品事故の内容により対応を決定しなければならない。長期間使用される製品は設計時と社会情勢が変化していることが多いので、特に注意が必要である。
<事例>
東芝ホームテクノ扇風機発火・火災事故
事故概要 | 40年以上使用した扇風機の経年劣化により火災発生 |
企業の対応 | 使用停止を呼びかける社告 |
※参考文献
消費者庁ホームページ
NITEホームページ
経済産業省ホームページ
上田正和 欠陥製品の流通と刑事責任 大宮ローレビュー第6号