インプット情報、製品の使われ方を考慮し要求事項をブレークダウンしていきます。ブレークダウンした要求事項に対して設計解を当てはめていくと要求仕様書・詳細設計書になります。要求仕様書・詳細設計書は、それを見れば図面が作成できるレベルにまで仕上げることが理想です。設計者のスキル、組織能力、設計資産の蓄積がモノを言う製品設計プロセスの本丸です。
要求仕様書・詳細設計書の例(樹脂製の幼児用椅子)
ライフ サイクル |
項目 | 要求事項 インプット元 |
要求事項 | 設計方針 | 設計解(案) |
製造 | 外観 | 使われ方シート | 保管時に直射日光に当てないこと。 | ・製造委託企業へ注意喚起 | ・購買仕様書へ記載 |
安全性 | 過去クレーム | バリなきこと。 | ・製造委託企業へ注意喚起 ・高流動グレードの樹脂選定 |
・図面にバリなきこと記載 ・購買仕様書へ記載 ・出荷時に抜き取り検査 ・実績のある〇〇社のPP△△を選定 |
|
輸送・ 据付 |
安全性 外観 |
使われ方シート | 誤って落としても破損しないこと。 | ・社内落下試験A基準に合格する包装仕様 | ・現行品〇〇と同じ包装仕様 |
外観 | 過去クレーム | 静電気により汚れないこと。 | ・ビニール袋に一つずつ入れる。 | ・現行品〇〇と同じ対策 | |
販売 | 安全性 外観 |
使われ方シート | 8段積みしても問題ないこと。 | ・8段までスタックできる形状とする。 ・販売店には5段が上限であることを伝える。 |
・スタック時に安定させるためのリブを追加 ・新商品説明会で営業部門へ連絡 |
使用 | 安全性 | 使われ方シート | 6歳男児が使用しても安全であること。 | ・使用時の繰り返し荷重でも破壊しない強度を確保する。 ※樹脂の強度は35℃環境下の物性で評価する。 ※樹脂強度のバラツキを考慮し安全率は2とする。 ・破損しても端部が鋭利にならない樹脂を選定する。 ・4歳以上は使用禁止の注意ラベルを貼る。 |
・樹脂脚の肉厚は2.5mm+リブ補強 ・別紙「CAE計算結果報告書」参照 ・別紙「リスクアセスメント結果報告書」参照 ・破損時に鋭利にならないPP△△を選定 ・注意ラベルを椅子側面に貼り付け |
使いやすさ | 商品企画書 お客様情報 |
3歳までの幼児が使いやすいこと。 | ・座面が高過ぎるという情報が多いので、2歳児の身体寸法の平均値を使って設計する。(前モデルは3歳児の身体寸法の平均値) | ・別紙「各寸法値の考え方」参照 | |
保守 | 保守性 | 商品企画書 | メンテナンス用部材は不要。 | ・メンテナンス用部材は準備しない。 | ・同左 |
廃棄 | リサイクル性 | 商品企画書 設計基準書 |
リサイクルしやすいこと。 | ・設計基準書に準拠した材料表示を行う。 ・接着による接合は行わない。 |
・座面裏面に材料表示刻印 ・接合箇所はPP製樹脂ネジとする。 |
要求仕様書・詳細設計書を作成せずに図面を描いたり、試作をしたりする企業や設計者もいらっしゃるようですが、下記の意味で必須の作業だと考えます。
①製品に問題が発生した時に、何が悪かったかの振り返りと対策がしやすくなる。(設計のPDCAが回せる)
②社内イントラ等でオープンにすることにより、設計に関する知識・知恵を組織全体で活用できる。(設計資産化)
③設計の妥当性を文章で記載しなければならないため、KKD設計(勘と経験と度胸)になりにくい。
④設計要求事項の漏れが少なくなり、品質の向上や設計リードタイムの短縮が見込める。
⑤新人設計者の設計内容もチェックしやすくなる。
⑥設計者の不正を防止する。(残念ながらまれにあることです)
設計解が簡単に導けないもの、設計解の妥当性判断が難しいものは、いわゆる「ネック事項」「設計課題」などと呼んで、重点的に設計検討を行っていきます。様々な制約条件の中でこの「ネック事項」「設計課題」が解決できず、設計変更や手戻りになることもよくあります。スケジュール遅れの主要因のひとつです。設計者や管理者の目利き力にも依存しますが、「ネック事項」「設計課題」になりそうな技術をできるだけ早い段階で抽出し、社内の有識者などを含めたフィージビリティスタディ(実現可能性の判断)を行うことが望ましいと思います。
要求仕様書・詳細設計書は設計担当者が書きますが、内容はすべてリーダー、管理者、経営者などがチェック、承認する必要があります。ヒューマンエラー防止、組織マネジメント、設計資料の設計資産化の面で設計者一人に任せないようにすべきです。耐震ゴムの不正事件などでも分かるように、設計者一人に任せる体制は不正を生む温床となります。また、チェック、承認する仕組みこそが設計資料を価値ある設計資産にするエネルギーとなります。もちろん、経営者がやみくもにすべてチェック、承認する必要はありません。安全面の判断は経営者、それ以外は管理者が承認するなど、自社の実情に合った効率のよい仕組みを構築していけばよいと思います。次工程にFMEAやデザインレビューがありますが、その工程における承認の進め方によっては、要求仕様書・詳細設計書の段階では承認までは行わないという方法もあります。ポイントは製品設計プロセスの中で「モレなくダブりなく」承認することです。
要求事項と設計解を結合するという目的を達成するのであれば、フォーマットはどんなものでもよいと思いますが、以下のポイントを考えながら自社の状況に合わせて作成することをお勧めします。
①前後工程の設計資料の記載内容と重複させない。
※重複すると設計効率が下がるだけではなく、設計変更時の資料書き換えを忘れ、後で使えない資料となる可能性がある。
※設計者のモチベーションの低下につながる。
②管理者の管理のためだけのフォーマットにしない。
※設計効率の低下と設計者のモチベーション低下につながる。
③可能な限りシンプルなフォーマットにする。
※フォーマットは放置するとどんどん複雑になっていく運命を持っている。