FMEAとは故障モード影響解析のことで、設計者が要求仕様書・詳細設計書の工程で具体化した設計解が、故障モード(不具合)の面から問題ないかを確認します。手間がかかると思われているため批判も多い手法ですが、うまく活用すればこれほど効果の高い未然防止手法はないと思います。
私自身FMEAを10年以上実務でやってきましたが、これ以上の未然防止手法は存在しないのではないかと思っています。しかしながら、うまく活用することが難しいのがこのFMEAです。社内外に提出するための「儀式としてのFMEA」「表を埋めるためだけのFMEA」になっている企業の話を頻繁に聞きます。「FMEAをやるメリットはない」「面倒なだけ」という設計者の話もよく聞きます。これは製品設計プロセス全体の中でのFMEAの位置づけの問題と、複雑なFMEAとなってしまっている実施方法の問題の2つがあるのではないかと思っています。
それらの問題を踏まえた上で、中小製造業が実施する場合のお勧めのFMEAを紹介したいと思います。
FMEAを実施するためのポイント
※要求仕様書・詳細設計書の工程までしっかりやっていることが前提
※比較的シンプルなコンシューマー製品を想定
※規格や客先との取り決め等で必要なFMEAの帳票が決まっていない製品を想定
<製品設計プロセスの中での位置付け>
①前後工程の作業と重複しないようにする。
(例:FMEAと過去クレームチェックリスト、FMEAとFTA など。重複はいずれFMEAを形骸化させる。)②内容は管理者(内容によっては経営者)が「承認」する。すべての項目が「承認」になるまでFMEAを繰り返す。
(承認/却下を伴わないFMEAはいずれ形骸化する。)③FMEAは設計資産として活用できるように必ず完成させ、社内イントラなどに保存し、活用できるようにする。
(設計変更などが重なると内容が古いまま更新されないことがある。)
<実施方法>
①「新規点」「変化点/変更点」の2つに絞って行う。②少なくとも担当者、管理者、有識者の3者が集まって行う。
(人数が多過ぎても議論しにくい。)③一般的なFMEAにおける用語の定義やRPN等の数値はあまり気にせずに実施する。
(不具合の抽出と設計解の妥当性判断に重点を置く。複雑なFMEAはいずれ形骸化する。)④設計解の妥当性の判断基準については、別途可能な限り明確にしておく。
(安全性についてはリスクアセスメント、それ以外についてはクレーム率など。)⑤設計者が考える「不具合」に抜けがないか、「設計解」は妥当か、という点を重点的に議論する。有識者の人選はその議論ができる人にする。
⑥設計者は「自分が気付かない不具合を見つけてもらう」ことを目的にFMEAを実施する。「儀式としてのFMEA」を行うのであれば実施する意味はない。
⑦設計者は「不具合を見つけてもらう」ために、参加者の理解が進むような、図面、サンプル、資料などを事前に準備する。
⑧有識者は、効果的な指摘をするように心がける。重箱の隅をつつくような指摘はFMEAの効果を下げるだけ。
(設計に百点満点はない。合格点を目指す。有識者のスキルアップも重要課題。)⑨不具合(故障モードとその影響)は過去の失敗事例、クレーム、お客様情報、自分の経験、想像力などを総動員して抽出する。
(製品のライフサイクルを考えながら不具合を抽出すると、抜け漏れが少なくなる。)
FMEAの例(樹脂製の幼児用椅子)
新規点 変化点/ 変更点 |
機能 | 不具合 (故障モードとその影響) |
原因 | 設計解と妥当性の根拠 | 承認/ 却下 |
スタック用リブを追加 | 段積み時の椅子の傾きを防止 | リブの先端で怪我をする。 | 使用者(幼児)が座面を手に持ったまま座る。 | リブの先端をR5とする。 <妥当性の根拠> 試作品で確認、問題なしと判断 (別紙「試作品評価報告書」参照) |
承認 |
リブが破損する。 | 段積みしたまま輸送し、振動によりリブが疲労破壊を起こす。 (特に夏季の高温時) |
リブ根元の肉厚2.5mm。 PPバンドで固定して出荷 <妥当性の根拠> 強度計算により、65℃環境下において、疲労限度に対して、3倍以上のマージンあり。 (別紙「疲労強度計算報告書」参照) |
承認 | ||
前モデル品の座面を傷つける。 | 前モデル品の上に今回のモデルを段積みされる。 | 想定漏れ | 次回報告 | ||
座面高さ変更 260mm⇒250mm |
幼児が座る | 低すぎて使いづらい。 | 洗面所で椅子の上に立って手を洗う時、届かない。 | 250mmとする。 <妥当性の根拠> 要求仕様書・詳細設計書No.15参照 |
承認 |
段積みする | 輸送中に破損する。 | 前モデルに比べて段積み時(5段)の高さが低くなるため、緩衝材で段ボール内部での振動を吸収できない。 | サイズの小さな段ボールを新設 緩衝材は前モデル品を流用 <妥当性の根拠> 段ボール材質に変更はなく、振動はむしろ低減するので問題なしと判断。初期品で輸送試験を実施する。 |
承認 | |
ネジ変更 SUSネジ⇒PP製ネジ |
座面と脚を接合 | 接合部が緩んでガタつく。最悪の場合脚が外れる。 | 製造時のトルク管理不良 | 製造時のトルク管理(作業標準書へ記載) M5のネジとする。 <妥当性の根拠> 製造時のトルクに対して、2倍以上のマージンあり。 (別紙「トルク試験結果報告書」参照) |
却下 <理由> トルク管理のバラツキ不明のため。 |
使用時の繰り返し荷重 | 万が一緩んでも脚が外れないようにピンを追加 <妥当性の根拠> 試作品にて繰り返し荷重試験実施済。 (別紙「繰り返し荷重試験結果報告書」参照) |
承認 |